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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)2109号 判決

原告

大福機工株式会社

右代表者

広沢敏夫

右訴訟代理人弁護士

野玉三郎

外一名

右輔佐人弁理士

藤本英夫

外二名

被告

株式会社椿本チエイン

右代表者

大村利一

右訴訟代理人弁護士

高村一木

外四名

主文

原告の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告が考案の名称を「衝突防止装置付長尺物移送装置」とする本件登録実用新案(登録番号第七八八四一一号、出願日昭和三七年一〇月九日、出願公告昭和四〇年六月七日、出願公告番号昭四〇―一五七八五号、認定登録日昭和四〇年一二月九日)の実用新案権者であり、本件登録実用新案の登録請求の範囲の記載が、次のとおりであることは、当事者間に争いがない。

「無端チェーンを案内させるチェーン案内軌条に沿つて前述チェーンを移動回動させるべく原動機に連動連結させ、前述無端チェーンの径路の側部に沿つて移送車転載用軌条を固装し長尺物懸吊用ビームの二個所から上方に延出させた腕杆の上部に夫々転車を連結し、此等転車を前述軌条に夫々転載させ、此等転車と此等の転車の外側前後位置で前述軌条に転載させた転車とを夫々間隔保持用連結杆の両端に夫々枢着して前述の長尺物懸吊用ビームと前述間隔保持用連結杆とを以つて、前述の全転車を互に連結させ、此等転車の内の前進方向最先の転車から前述無端チェーン側に突出引退自在に被動用突起を突設させると共に、この転車の前端部に可動片を装着し、前述チェーンからも前述被動用突起の端部近く部分の移動軌跡に及ぶ推進用突起を適当間隔を隔てゝ突設させ、此等転車群の後端に位置する転車から進行後方に突起部を突起して移送具を構成させ、上述移送具と同様の移送具を前述軌条に転装させた状態で両移送具が圧接される場合の先行移送具の後端突起の圧接による後側移送具の前端転車の前端可動片の被圧による可逆移動をして後側移送具の先端転車の被動用突起を引退させるべく連動連結させた事を特徴とする衝突防止装置付長尺物移送装置。」

二被告が運搬装置等の製造販売を業とする株式会社であり、昭和四五年一月頃から業としてイ号物件を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

三当事者間に争いのない本件登録実用新案の登録請求の範囲の記載並びに本件実用新案公報の「考案の詳細な説明」および図面の記載からみて、本件登録実用新案の考案は次の構成要件からなる衝突防止装置付長尺物移送装置であると認められる。

(a)  無端チェーンを案内させるチェーン案内軌条を設け、これに沿つて無端チェーンを移動回動させるべく原動機に連動連結させ、

(b)  右無端チェーンの径路の側部に沿つて移送車転載用軌条を固装し、長尺物懸吊用ビームの二個所から上方に延出させた腕杆の上部にそれぞれ転車を連結し、これら転車を移送車転載用軌条にそれぞれ転載させる。

(c)  右転車とその外側前後位置で移送車転載用軌条に転載させた転車とを、それぞれ間隔保持用連結杆の両端にそれぞれ枢着して長尺物懸吊用ビームと間隔保持用連結杆とをもつて、全転車を互に連結させる。

(d)  これら転車のうち前進方向最先の転車から無端チェーン側に突出引退自在に被動用突起を突設させるとともに、この転車の前端部に可動片を装着し、前述チェーンからも被動用突起の端部近く部分の移動軌跡におよぶ推進用突起を適当間隔を隔てて突設させる。

(e)  これら転車群の後端に位置する転車から進行後方に突起部を突設する。

(f)  以上の転車群の連結並びに推進用突起によつて構成された移送具が、移送車転載用軌条に転装された状態で、前後の移送具が圧接する動合、先行移送具の後端突起が後側移送具の前端転車の前端可動片に圧接し、前端可動片の可逆移動により後側移送具の先端転車の被動用突起を引退させるべく連動連結させる。

四原告は(c)の構成要件について、本件登録実用新案の登録請求の範囲の記載中に、長尺物懸吊用両転車の外側前後位置に各一本宛の間隔保持用連結杆を設けたものに限らず、長尺物懸吊用両転車の外側前方位置にのみ一本の間隔保持用連結杆を設けた場合あるいは後方位置にのみ一本の間隔保持用連結杆を設けた場合をも含めて表現している旨主張する。

しかしながら、登録請求の範囲には、この点につき、「……長尺物懸吊用ビームの二個所から上方に延出させた腕杆の上部に夫々転車を連結し、此等転車を前述軌条に夫々転載させ、此等転車と此等の転車の外側前後位置で前述軌条に転載させた転車とを夫々間隔保持用連結杆の両端に夫々枢着して前述の長尺物懸吊用ビームと前述間隔保持用連結杆とを以つて、前述の全転車を互に連結させ」と記載してあるのであつて、この記載を本件実用新案公報の考案の詳細な説明ならびに同図面に照らして解釈すると、右登録請求の範囲の記載は、長尺物懸吊用ブーム4(この番号は図面に示すもの、以下同じ)の前端寄りと後端寄りの二個所から上方に延出させた腕杆5、6の各上部に夫々転車7、8を連結してこれらの転車を軌条3に転載させるとともに、右転車7・8の夫々前後位置で別に軌条3に転載させた転車9・10とを夫々間隔保持用連結杆13・14の両端に夫々枢着して、長尺物懸吊用ビーム4に、前方に設ける間隔保持用連結杆13と、後方に設ける間隔保持用連結杆14とを一体的に連結する趣旨であることが明らかである。

そうすると、本件登録実用新案の登録請求の範囲にいう「間隔保持用連結杆」とは、右に認定したとおり、長尺物懸吊用ビームの上方の前後に設ける「二本の間隔保持用連結杆」を意味することは疑いをいれる余地はないから、前記(c)の要件についての原告の主張は採用することができない。

五ところで、イ号物件には、後方に間隔保持用連結杆14を設けているが、前方には間隔保持用連結杆を設けていない。

原告は、イ号物件の間隔保持用連結杆は本件考案の二つの間隔保持連結杆の長さに匹敵するものであり、その作用効果においても同様であるから、イ号物件の間隔保持用連結杆は本件考案における二本の間隔保持用連結杆と均等である旨主張する。

本件考案において、長尺物懸吊用ビームの上方前後の各腕杆5・6上部から前方位置と後方位置に夫々間隔保持用連結杆13・14を突出せしめたのは、その意図が長尺物懸吊用ビームにより懸吊する長尺物の衝突防止のための間隔保持にあることは明らかであるが、このように、衝突防止用突出部材を前方位置と後方位置に夫々設けることにしたのはその突出部材である間隔保持用連結杆の張り出しを少くすることをも意図したものであることは容易に推測されるところである。しかるに、間隔保持用連結杆を一本にして、二本分の長さに亘り張り出さしめることは本件の本案の目的に背馳するのみならず、前後に各その半分の長さの間隔保持用連結杆を設ける本件考案の構成より軌道のカーブの曲率半径が大きくなることが推測され、その作用効果において両者全く同一であるとは認められない。

したがつて、イ号物件における後方位置に設けられた間隔保持用連結杆一本をもつて、本件考案における前後位置に設けられる間隔保持用連結杆13・14二本と均等であるとなす原告の主張は採用することができない。

六のみならず、イ号物件における係脱装置は本件考案におけるそれと具体的構成において同一ではない。すなわち、

本件考案における係脱装置は、前記(d)、(e)、(f)の構成要件からなる。イ号物件における係脱装置も畢竟、先行移送装置の後端に突出せる突起である扇枠形突起部20に後従移送装置の可動片16が圧接するときは、可動片の回動により結局ドッグ21の被動用突起部15が横転による引退により、コンベヤチェーンに結合して突設させた推進用突起19との係合を解き、チェーンは推進用突起とともに進行を続けるので、コンベヤチェーンを停止させることなく、しかも被搬送物を接当させずに、確実に移送具を停止させることができるという本件考案と同一の作用効果を奏することができると認められる。

しかしながら、イ号物件における係脱装置の具体的構成は、要するに発進レバー23、止錠レバー22、ロック24の下端部と連動連結した前端可動片16および被動用突起15を設けたドッグ21を順次連動するように組み合わせ構成した部分と扇枠形突起部20とからなり、先行移送具の扇枠形突起部20が後続移送具の前端可動片16を後方へ押圧移動させると、前端可動片16の他端と連動連結したロック24が右他端の上方移動に従つて上昇し、ドッグ21の拘束を解いてドッグを横転させ、他方止錠レバー22の接触端部が前端可動片16の止錠用凹部に嵌合して前端可動片16およびロック24を固定し、扇枠形突起20の押圧が解除されても右固定が継続し、扇枠形突起20が前進して発進レバー23を前方に回動させると、始めて止錠レバー22の前方先端部が発進レバー23の突起部に押し上げられ、前端可動片16の止錠用凹部に嵌合していた右接触端部が下方に移動して右嵌合を解除し、前端可動片16の下端部を前方へ(別紙第3図上左方向へ)、ロック24と連結している他端部を下方へ移動させ、同時にロック24の上端部によつてドック21を拘束位置に戻すものであり、ドッグ21がその拘束を解放されて横転すれば、ドック21の一端である被動用突起15が推進用突起から脱離し、拘束位置に復すると被動用突起15が再び推進用突起と係合するものである。

右の構成により、イ号物件においては、先行移送具と後続移送具とが衝突の際、反動で先行移送具の扇枠形突起部20と後続移送具の可動片16とが幾らか離れたり衝突したりしても、その関連位置の変動は、直ちに被動用突起部15と推進用突起19との関連関係に影響を及ぼすことなく、ドッグ21の解放状態はそのままであるので、いわゆる往き戻り運動を繰り返すことなく、コンベヤチェーンの静粛、円滑な運行を確保できることが期待される。

本件考案における係脱装置は、本件登録実用新案の出願時公知(昭和三五年八月三〇日特許庁受入)のフランス特許第一二一九三〇四号の公報に開示されたところと殆んど同一の構成であると認められるのであるが、本件実用新案出願時、イ号物件における係脱装置と同一種の構造のものが公知であつたと認むべき証拠はなく、右基準時、本件考案において採用した係脱装置に代え、イ号物件における係脱装置を用いることの推考が容易であると認めるべき証拠はない。

かえつて、イ号物件において採用せられている係脱装置と同一の構成であると認むべき係脱装置について、本件実用新案の公告後である昭和四二年九月二一日被告により特許出願され、昭和四六年七月一七日出願公告せられている(特許出願公告昭四六―二四八五〇号)事実が認められるので、右の事実に徴すると、本件実用新案出願時においては、イ号物件における係脱装置は容易に推考し得なかつたものであることが推認されるのである。

そうすると、イ号物件における係脱装置は本件実用新案における係脱装置と解決原理において共通するところがあるとしても、その具体的構成において異り、前者の構成を後者のそれと均等であると認めることはできない。

七以上検討して来たところによれば、イ号物件は本件考案の構成要件を具えていないのみならず、本件登録実用新案権の保護の範囲に属さない別個の装置と認めるべきであるから、被告のイ号物件の製造販売行為は本件実用新案権を侵害するものということはできない。

八よつて、反対の見解に立つ原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し……主文のとおり判決する。

(大江健次郎 小林茂雄 香山高秀)

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